総評
第29回スニーカー大賞は変わらず多くの執筆者様より作品をご応募をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。
ライトノベルは一昔前と比べてジャンルの幅が狭まっている、というご意見を目にすることもありますが、
スニーカー大賞応募作においては流行を追いかけたというより執筆者の個性が前面に出た作品を多数拝読することが出来ました。
「貴方にしか書けない物語」これは言うまでもなく素晴らしいことであり、長きに渡って編集部が応募作に求め続けてきたことです。
ただ、一つ今の時代に新たなことを申し上げるならば、編集部は今「キャッチーな作品」を求めています。
様々な娯楽が無料で享受出来てしまう時代にあって、読者に作品を読んで貰うことのハードルが年々高まっていることは想像に難くありません。
だからこそタイトルを見ただけでワクワクしてしまうような、ありそうでなかった企画性。
あらすじを見た際に「これは読まない訳にはいかない!」と読者に思わせる吸引力。
スニーカー大賞ではそういったキャッチーさを備えた作品との出会いを強く求めています。
現在スニーカー文庫より刊行された作品は国内でヒットすれば漫画化され、翻訳出版され、そして映像化されれば世界中の国で配信されます。
こうした時代にあって編集部は今、日本国内のみならず世界を熱狂させる作品との出会いを願ってやみません。
現在開催中の第30回スニーカー大賞でも、この大きな夢を共に追い求めていただける作家様からの熱いご応募をお待ちしております。
スニーカー文庫編集部 編集長
女装の麗人はかく生きたり
ここは聖霊が支配する国家。「人間の男」という最も低い身分にあるリオは、エルフのディアに仕え、女装の麗人として闘技者の日々を送っていた。ある日、上位種の議会で人間を統治する法案が提出され、世界は大きく動き始める!これは奴隷の少年が仲間とともに未来をつかみ取る活躍譚。
選評
まず導入として、エルフやヴァンパイアなどの種族が登場する世界の風景や、その世界で生き抜くリオの様子が鮮やかに提示され、筆力の高さが伺えます。
そして、高位種族たちが奴隷身分である人間をどのように考え扱っていくかを巡って物語は進行していきます。リオを始めとした数多くの登場人物それぞれの思惑が絡んだストーリーラインと、その結末の描き方も非常に水準が高いものでありました。
一方でタイトルにある「女装」など、作中での活用が薄く、設定としてまだまだ伸びしろを残している部分もいくつか見受けられました。
これらの点から、本作は《銀賞》の受賞となりました。大変ポテンシャルの高い作品ですので、その力を最大限にして皆様にお届けできることを楽しみにしております!
僕はライトノベルの主人公
ぼっち高校生・手塚公人は『メインヒロイン』の名乗る文武両道の美少女・高嶺千尋に迫られていた。千尋曰く公人は『この世界の主人公』らしい。馬鹿馬鹿しいと思いつつ彼女に振り回されていると、不意に手に入れたある本に“自分が主人公の物語”が記されていて――メタフィクションラブコメディ。
選評
美少女に見初められて、自称付喪神、自称魔女、自称超能力者など、奇人変人たちの集まりに参加させられる。それをきっかけに主人公は不可思議な出来事に巻き込まれ……二章までのあらすじは一昔前のラノベあるあるを煮詰めたような世界観は、三章になって一気に展開します。主人公は、今まさに自分たちが紡がれている最中の物語を手渡され「この物語を完成に導く」という役目を担い、読者が読み進めるのと同時並行するように物語が紡がれていく。盛大なメタ作品として最後まで描き切っていました。
メタを取り入れた作品は、スニーカー大賞にご応募くださる作品の中で毎年何点かは拝読していますが、その中でもここまで徹頭徹尾やり切ったメタ作品は珍しく、一度読み終わった後にもう一度頭から読み直したくなる魅力がありました。
もちろん、劇中で若干持て余したらしきキャラクターなど粗削りなところはありますが、メタフィクションとして描き切る筆力は素晴らしく、また、メタ作品としてだけでなく若干頭打ちになっているラブコメディジャンルの新天地を読者に提示できる作品になると思います。読者の皆様にもこの作品を楽しんでいただけるのが、今から楽しみです!