編集部より
平素より弊社作品をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
2024年11月29日に発売された『人類すべて俺の敵2』のメロンブックス特典の内容に不備がございました。

深くお詫び申し上げますとともに、下記に訂正した内容を記載させていただきます。
『二つの鈴が鳴っている』
「——おーいリン。リーンってばー。鈴麗ちゃーん?」
私を呼ぶ懐かしい声。目の前でさらさらと揺れる、月光色の長髪。
遠くに山々を見渡せる開けた平原。背の低い青草が一面に広がっている。周りに誰もいないその美しい緑の大地を、私と月鈴は二人で歩いている。
『一緒にここから抜け出さない?』
そんな彼女の誘いに応じ、立てた計画を実行に移したのが数日前。
事前に偽装工作はしてきた。私も月鈴もすでに死んだことになっている。だが、油断はできない。いつ離反の事実がバレて追手がかかるか分からないのだから。
「お、ラズベリー見っけ」
しかし、私が懸念を深める一方で、月鈴のほうは終始肩の力を抜いているようだった。
「……今更だけど、どうして私を誘ったの? 一人でも逃げられたのに」
私は、以前から気になっていたことを尋ねてみた。
「どうしてって……そんなのリンのことが好きだから以外に理由ある? 前にも言ったでしょ。私は私の好きを大事にしたいって」
さも当然といった語調での返答。おそらく今、私は間の抜けた顔をしていた。
月鈴は低木に生っていた実を採ると、ひょいっと口の中に放り込んだ。
「うわ、酸っぱー。リンも食べる?」
「酸っぱいのになんで勧めてくるのよ」
「だって共有したいじゃん。大丈夫、若干甘みもあるし。あとラズベリーの花言葉は『愛情』だからさ。私の愛、受け取ってほしいなー♡」
「……遠慮しておくわ」
食べてもどうせ血の味しかしない。
それに、ラズベリーには他にも『深い後悔』という花言葉がある。まるで何かを暗示しているかのようで、なんだか無性に気が引けた。
「私はこっちでいい」
「あはっ、また飴? 私があげてからすっかりハマったみたいねぇ♪」
そう言って微笑する彼女の髪を、穏やかな風がさあっと撫でる。
「あのね鈴麗、イチゴにも花言葉があってね——……」
そこで不意に、月鈴の声が遠ざかった。景色も徐々に白んでいく。
その瞬間、悟る。これは夢なのだと。きっともうあと何分もしないうちに意識は覚醒し、この夢物語は終わりを告げるのだろう。
事によればあったかもしれない未来。けれど、もう絶対に訪れることはない未来。
あの時この子の手を取っていれば、こんな人生もありえたのだろうか。彼女と共に生きられたのだろうか。
分かっている。どんなに悔やもうとも、過ぎ去った時を巻き戻すことはできないと。
でも、それならせめて……今くらいは…………。
平和な草原に清風が吹く。金髪と黒髪がふわりと宙に翻る。
チリン——と、涼しげな音色が響いた。
浸る、泡沫の幸せ。優しく柔らかな光が射す世界。
その中で、私と月鈴が着けている、二つの鈴が鳴っている。

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