「転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件」限定しおり③
偶然の出会い
高校入学式の直前、みなもの祖父は突然、入院することになった。
祖父のいない1人の家はやけに広く感じ、みなもの胸に埋めようのない空白を押し広げいく。また入院の手続きなどが一段落すると手持ち無沙汰になって、余計に家にいると孤独感に襲われてしまう。
だからみなもは、あまり家に寄り付きたくなかった。
しかし友達と一緒に遊んだりして帰宅の時間を遅らせようにも、みなもは今年になって地方から都会へやってきたばかり。中学からの知り合いはおらず、気の許せる人はいない。
また祖父の入院まわりでバタバタしていたこともあり、クラスメイトと話す切っ掛けも逃がしてしまっている。
気が付けば既にいくつかのグループが出来上がりつつある中、積極的にその輪の中に途中から入りに行くことができるほど、みなもは社交性が高くなかった。
学校でも孤立気味、だけど家にはあまり帰る気になれなくて。
そんなみなもが放課後、校内をうろついている時に見つけたのが、ほったらかしにされている校舎裏の花壇だった。
それを見たみなもは、天啓のようにあることを思いつく。
都会の祖父の家に来ることなる前、どうしようもない悲しみに暮れていた時。それでもお腹が空き、台所で放置されていたじゃがいもや玉ねぎが、力強く芽を出しているのを見かけ、普段食べている野菜も懸命に生きているということを知った。その野菜を育ててみようかと思ったのだ。
花壇が荒れていることから想像した通り、現在園芸部は誰も居ないらしい。部員は入部届を出したみなも1人。
植物を育てるなんて、小学校の頃に朝顔を鉢植えで育てた以来だ。
つまり何もよくわかっておらず、自分で調べながら何もかもが手探り状態。
作業だって、慣れないことばかりで大変だ。
だけどこうして野菜を育てたおかげで、寂しさを紛らわせることもできた。
種を植え、初めて芽が出た時は胸を躍らせ、どんどん成長していく様子を見守っていると、そわそわしつつも愛しさが育まれていく。
そして花を付けた時は全身が熱くなるほどの興奮と達成感、幸福とときめきで心がない交ぜになった。
この気持ちを誰かと分かち合いたい。
真っ先に祖父の顔が思い浮かぶも、しかしそれは叶わない。
ここにきて野菜を育てるのに夢中で、クラスでの交流がますます疎かになっており、友達はおろか、登校して挨拶を交わすような知人もいないことにも気付く。
そんな自分に呆れもするが、しかし野菜は花が咲いてから本番。実を付けるのはこれからだ。
ナスやトマトが着実に実を付けていく中、あまりうまくいかない作物があった。正確には実を付けるものの、大きくならないのだ。
みなもが色々試すも効果が出ず、どうしたものかとほとほと困っていたその時、不意打ち気味に声を掛けられた。
「それ、ズッキーニ?」
みなもは驚きから、少々はしたない声を張り上げる。
「ぴゃああっ⁉」
「驚かせてごめん。でもその黄色い花、ズッキーニだよね? 隣の紫の花が茄子で白い花がシシトウ……トウモロコシもあるな?」
声のした方へ振り向いた先にいたのは、やけに慈しむような笑みを浮かべる男子生徒。
しかもそれぞれの花を見て何の野菜かを言い当てられるとは思いもよらず、驚きつつも何か状況を打開できるかもという期待と共に、言葉を返す。
「ふぇ⁉ は、はい、そうです合ってます!」
これを切っ掛けに野菜の育成だけじゃなく、みなもの人間関係も変わっていくとは、この時はまだ思いもよらなかった。