「転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件」限定しおり②
田舎者と思われたくないので!
姫子が都会へ引っ越してきて真っ先にしたことは、制服の受け取りだった。
いくつもの段ボールが積み重なった自分の部屋で姫子は、兄や父がせっせとリビングで荷解きしている音をBGMにして、すぐさま新しい制服へと着替え、姿見の前でチェックする。
都会で通うことになる中学のセーラー服は、月野瀬の野暮ったいデザインの制服と違い、垢抜けて洗練されており、非常に可愛らしい。
「ふむ」
姫子は我ながらなかなかどうして、ちゃんと着こなせていると、満足気な声を上げる。
スカートの丈の長さや、靴下の色なども、想定通りばっちりだ。
制服に着られやしないかちょっと心配していたが、杞憂のようだった。
姫子が生まれ育った月野瀬は、ドが付く田舎である。
山奥もいいところにあって、僅かな平野部分には田畑が広がり、住んでいる人の数より羊や鶏の数の方が多い。
そんな辺鄙なところから来た姫子は、田舎者である自覚があった。
姫子にも年頃の乙女として、田舎者に見られたくない見栄がある。
おそらく都会で最も多くの人と出会い、知り合う場所は中学校だろう。
制服は、学生の戦闘服だ。
だから姫子は制服姿の自分に、並々ならぬこだわりと意気込みがあった。
改めて姿見の中の自分を見てみる。
自画自賛するわけではないけれど、割といい線を行っているのではないだろうか。
新しい制服にテンションが上がったこともあり、調子に乗り出した姫子は、姿見の前でポーズを決めてみる。うん、中々悪くないとしたり顔。
姫子は夢中になって、次々と自分が可愛く見える角度や仕草がないか、探るように色んなポーズを試していく。
するとその時、ガチャリとドアが開かれた。
「姫子、夕飯だけど――わぷっ⁉」
「おにぃ、ノック!」
いきなり部屋に入ってきた兄に、ノリノリでポーズを決めていたところを見られた姫子は、羞恥で顔を真っ赤にして制服に着替える前に着ていた服を引っ掴んで投げつける。
それをモロに顔面で受けた隼人は、ブスっとした表情で答えた。
「声は何度も掛けたぞ」
夢中になって聞こえてなかったのかもしれない。そう思った姫子は内心気まずく思いつつ、しかし誤魔化すように不機嫌そうな声を返す、
「……で、何?」
「夕飯、スーパーで弁当でも買おうって話になってるけど、姫子は何がいい?」
「お肉系なら何でもいい」
「あいよ」
姫子は兄を追い払うように背中を押し、部屋から追い出す。
そしてドアを閉め「はぁ」と大きなため息を吐いて顔を上げると、窓の外に夕陽に染まった都会の街並みが目に入った。
人工物が一面に建ち並ぶ、緑ばかりの月野瀬とはまるで違う別世界のような光景だ。
一体、どれだけの人が住んでいるのだろうか。想像もできない。
改めて目の前の都会の光景を、しばし呆然としながら眺める。
これから都会で生活していくことに、未だ実感がなかった。不安だってないわけじゃない。
「……もしかしたら、この中にはるちゃんもいるのかな?」
ふいにその時、懐かしい顔を思い返し、呟く。
幼い頃、兄と一緒になって遊んだ、都会へ行った男の子(、、、)。
今頃どうしているだろう?
都会の人らしく、洗練され垢抜けているのだろうか?
自分のことを覚えている?
あれから7年経ち、身体だって随分成長した。
もし再会したとしたら、田舎者じゃなく綺麗になったねと言われたい――なんて思っている自分に気付いて、くすりと噴き出してしまう。
「なんてね」
そう言って姫子はこれから始める都会の生活へ、機嫌良さそうに鼻を鳴らした。