祝デビュー! 特別読み切り 魔王と勇者のゼロフラグ「魔王と勇者の入浴(バス)タイム!?」

「魔王、勝負だ!」

 キッチンに立つボクに向かって勇者ちんが叫ぶ。
 魔剣を構え勇ましく立つその姿は、どっからどう見ても「美少女」である。揺るぎない意志を持った瞳は大きくキラキラと輝き、キュッと結ばれた唇はほんのりと赤く甘酸っぱい木の実のような風合いだ。そして、ぷにぷにとしたほっぺたは摘むとマシュマロみたいに柔らかくて、とても気持ちいいんだろうなぁ、と想像するだけで…………ほっこり。

 —— ンゴスッ! ——『勇者の攻撃 魔王は98のダメージを受けた』

 勇者ちんのカカトがボクの脳天に落ちてきた。
「人が勝負を挑んでる時に、なにほっこりした顔してんだ」
 ボクの反応が気に入らなかったようだ。
「しょ、勝負もいいけどさ……」
 ボクは勇者ちんの機嫌をとるために、話題を変える。
「その前に、夕飯を食べよう。今日は卵焼きが上手に焼けたんだ」
「卵焼きなんか知るか! 勝負しろ!」
 勇者ちんがボクに魔剣を突き付ける。その瞳は真剣そのものだ。
「卵焼き、ちゃんと甘いやつだよ?」
「…………甘いやつか。そうか……」
 音も無く、勇者ちんは魔剣を鞘へと納める。……甘い物が大好きな勇者ちんなのだ。
 ボクは魔王だ。けれど今は……色々あって……勇者ちんと人間界で牧場をやっている。トラブルなんかもあったけれど、割とうまくやっている方だと思う。
「いいか、お前は絶っ対、あたしが、倒してやるから、なっ!」
 力任せに一言ずつをボクにぶつけるようにそう言い、最後に「卵焼きを食べたら勝負だからな!」そう宣言して、勇者ちんはリビングへと向かった。
 ……まぁ、まだまだ問題は残っている……。
 しかし、この後起こる問題はもっと深刻で、ボクにとっては辛い出来事となってしまうのだった。