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スニーカー大賞

スニーカー大賞最終選考結果発表!

第16回スニーカー大賞 最終候補作品

あらすじ

アル・グランデ・カーポ 亜能退人

イタリアに本拠地を構えるマフィア、パルティエッツィ・ファミリーのドンの息子であるヴィノ。父親が倒れたとの知らせを受けて三年ぶりに故郷へ帰るが、実家で彼が目にしたのは暗殺された父親の死体だった——!?

思春期サイコパス 井上悠宇

大変困った幼なじみである麻川凜。"バラバラにする"ことに興味を持つ彼女とともに、総合パズル研究部に入った俺。だがそこで凜が、巷を騒がせているシリアルキラー・アドレスの残した暗号を解いてしまって——。

箱部 〜東高引きこもり同好会〜 小川博史

東高校引きこもり同好会、通称"箱部"。主人公の下野は、養護教諭からその"箱部"の解体を頼まれる。解体ということは、箱の中にいる三人の部員を外に連れ出さなくてはいけないわけで——!!

ポリティカル・スクール 足尾毛布

伝統的に生徒たちが派閥を作る校風がある、私立小出鞠学園。三派閥のうち「帯刀派」の中心人物である帯刀京香は、政治家の父を持ち、その手腕により数々の勝利をもたらしていた。そして今、部活棟の権利をめぐる、派閥闘争が開始される!

宇宙人の夏 白頭翁

問題ばかり起こす天文学部員を更生させようと、駿河結衣は夏休みを利用して合宿を計画する。だがその合宿で、宇宙人を見つけてしまい!? どうやら宇宙人は地球へランク・リューという物体を探しにきたというが——!?

選考委員 選評

安井健太郎

『ラグナロク』で第3回スニーカー大賞〈大賞〉を受賞しデビュー。格闘ファンタジーとしてひとつのジャンルを築くほどの爆発的ヒットとなる。第11回からスニーカー大賞の最終選考の選考委員を務める。

『アル・グランデ・カーポ』は、マフィアという題材を使いながらも、それを活かしきれなかった点が残念。ライトノベル、というジャンルを変に意識しないほうが、より面白くなったと思う。『宇宙人の夏』も前述と同様、ジャンルを意識しすぎることなく、普遍的な題材と正面からぶつかったほうがよかったのでは。一番、アイデアが光ったのは『箱部〜東高引きこもり同好会〜』だったが、出落ちの感が否めず、期待感が失速していった。箱、という題材にもっと執着して欲しかった。『思春期サイコパス』はヒロインなどのキャラクターには魅力があったぶん、主人公が弱い。彼にもなにかしらのサイコな部分があってもよかった。『ポリティカル・スクール』に関しては、以前、最終選考に残った著者の作品と比べて格段に筆力が上がっていた。敵役の弱さや物語の展開など、難も少なくないが、まだまだ伸びると思う。

 今回に限らず、応募作に現状の流行や売れ線をしっかりと組み込もう、という意識のある人が多い。それはよいことだが、自分が今書こうとしているものにそれが果たして必要か、またうまくその要素を溶け込ませられているか、じっくりと考えて欲しい。たとえそれらが作品になかったとしても、小説として完成度が高ければ問題はないし、多少、売れ筋から外れたものでもスニーカー文庫編集部ならば拾い上げていけると信じている。投稿者は、自分のアイデアと筆力を強く信じて挑んで欲しい。

岩井恭平

第6回角川学園小説大賞〈優秀賞〉を受賞し『消閑の挑戦者』でデビュー。その後『ムシウタ』シリーズが累計100万部を超えアニメ化もされる。マンガ原作や『サマーウォーズ』のノベライズなど、活躍の幅を広げている。

『アル・グランデ・カーポ』はマフィアのニヒルな格好良さと構成の丁寧さが目立ちました。きっと今後もそつのない小説を書けるであろう地力を感じます。その分、破天荒な演出、アイデアが少ないのが残念。

『思春期サイコパス』は何をしでかすか分からないヒロインに際立った魅力を感じました。それだけにヒロイン以外のキャラクターが想像通りの行動をとったことが惜しい。タガが外れたキャラには、タガが外れたキャラをぶつけて欲しかった。

『箱部〜東高引きこもり同好会〜』は箱部お目見えのシーンを、ぜひイラスト、贅沢を言えば動画で見たいと思いました。インパクトは随一。アイデアを活かす演出も上手い。ただ盛り上げ方と相対的に、事件の内容と解決の仕方が薄すぎました。

『ポリティカル・スクール』。一番もったいない作品だと感じました。政治的学校というテーマは面白いのに、常にヒロインが相手より賢く、敵対勢力を出し抜く工作に終始するのが残念。もっと燃える演出は他にいくらでもあるはず。

『宇宙人の夏』は可能性を感じるものの、突出した要素に欠けていると感じました。設定、キャラクター、展開、あるいはそれ以外の何か、といった作品としての武器といえるものが何かが見えにくかった作品。

 総評。今回は幅広い作風が集まったものの、選考委員が全員一致で高評価の作品も少なかったともいえます。だからこそ各賞の差異は、そのまま作品ごとの「売り」が明確かどうかということでもあります。持ち味があればそれをさらに活かすための推敲をし、持ち味が足りないようなら新たに追加する。どの作品がそれぞれの課題を克服し、一歩抜け出すか。デビューが楽しみなラインナップといえます。

THORES柴本

第2回スニーカー大賞受賞者・吉田直氏の出世作『トリニティ・ブラッド』の挿絵でデビュー。その独特の世界観で、幅広いファンから心酔されるイラストレーターとして活躍中。

 今回は私が関わった中でも時間を要し、なかなか難しい選考会となりました。

『アル・グランデ・カーポ』
 主人公の能力や心情の変化などが判り難く、敵もあっさりしていて説得力が無いのですが、選考作中、唯一の非学園で能力バトルものなので期待という意味で評価しました。しかしせっかくのマフィアものならば女の子ばかりではなく、もう少し男臭い感じの方が良かったと思います。

『思春期サイコパス』
 派手ではありませんが、どこか詩的な印象と丁寧な描写で安定感があり、個人的には選考作の中では高評価になりましたが、類似した既存作品もある事から、インパクトに欠けるのが実に残念な所です。謎解きのアドレスや数式は明確に表示した方が面白いと思います。

『箱部〜東高引きこもり同好会〜』
 箱というガジェットそのもののインパクトは強でした。
 しかしその他は地味な印象で負けてしまっています。箱の中の人物はもっと個性的にして箱ももっと活かした方が良いと思いました。

『ポリティカル・スクール』
 学園の中の派閥闘争を主体にした点や、キャラクターの個性などは面白いと思いました。
 しかし説明セリフの長さや、敵キャラクターの弱さなどが少々目立つのが残念な所です。

『宇宙人の夏』
 花火のような賑やかさを持った学生の夏休みは楽しそうでした。しかしキャラクターが多過ぎて区別が出来ず、さらに台詞の応酬となり、情景の描写が不足しているのでだいぶマイナスの印象に思えました。宇宙人がマペットのような印象でどう捉えていいのか悩みます。
 キャラクターや役割を整理すること、描写や説明を丁寧に出来るともっと良くなると思いました。

 全体的に選考会では評価が分かれて平均するとあまり大きな差が見られず、目立って突出した作品が無く決定打に欠ける形になりました。
 イラスト的にも面白いと思われるガジェット、モチーフ、キャラクターや世界観が殆ど無かったのもとても残念でした。
 安定感のある物も良いですが、せっかくの新人賞ですから、個人的には独創的で個性的で勢いのある作品が欲しいと思いました。

竹田青滋

毎日放送入社後、2002年に放送された『機動戦士ガンダムSEED』のプロデュースを担当。その後『鋼の錬金術師』、『コードギアス 反逆のルル−シュ』などを担当し、アニメ界のムーブメントを作り続ける。

 今回は、非常に読みやすい作品ばかりでした。ということは、あまり癖のないひっかかりの少ないものが多かったということにもなります。

 高校学園もの3本が最終選考に残り、優秀賞を受賞しました。ひきこもりの部活動を展開するもの、政治家の娘が部室の分捕り合戦で派閥活動を繰り広げるもの、サイコパスの少女に振り回される幼馴染みの草食系男子が主人公のものと3作品ありましたが、そのうちふたつに数学の先生や数式の話が出てきます。まったくの偶然なのですが、その扱いがやや安易というか、ゾンザイというのか、あまり意味がない使われ方で、もう少し丁寧に描いて欲しかったです。

 私の好きな映画で、ノーベル経済学賞を受けた老数学者のジョン・ナッシュを取り上げた「ビューティフル・マインド」というのがあり、そのメイキングのなかで、ロン・ハワード監督とプロデューサーのブライアン・グレイザーが、統合失調症に悩まされながら研究を続ける老ナッシュ博士を数式の書きなぐられた黒板を前にして質問攻めにするシーンがあります。ふたりの製作者がそれぞれデジカメを持って、矢継ぎ早に攻め立てるのですが、その様子を部屋の後方から動かないドキュメントのカメラがじっとりと記録していきます。痛々しい画面ですが、造る側の気迫がひしひしと伝わってくる凄まじいシーンです。数式というような映像化、文章化するのが難しいものに取り組むという際の覚悟みたいなものが感じられるのですが、ライトノベルの世界にも、そうした気概と迫力を持ち込んでもらいたい気がしました。

 優秀賞のもう1作品も、高校に本来無縁である派閥争いという面白いネタを持ち込んでおきながら、それを十分に政治力学の詳細な描写に昇華できずに終わっており、ややフラストレーションが溜まりました。さらに、ライトノベルのジャンルには、珍しくイタリアンマフィアものという挑戦的な課題に取り組んだ作品は、ザ・スニーカー賞を受賞しましたが、誰もが期待する映画「ゴッドファーザー」に出てくるような血の掟やファミリービジネスの過酷な舞台裏などがまったく描かれておらず、作品世界に深みが不足してしまいました。

 それぞれが持ち込んだアイデアや設定は非常に面白いのに、それを十二分に描ききっていないところに、物足りなさと惜しいなあという残念な思いが残りました。せっかく若い作家さんたちの溌剌とした個性が光っているのに、それをとことん楽しみつくすという姿勢があれば、もっと読ませる作品だったに違いありません。書いている本人が一番面白がっている空気が伝わってくれば、読む方はどんどん引き込まれるのです。

 ちなみに、ロンとブライアンのコンビが作った映画は、「スプラッシュ」「アポロ13」「バックドラフト」などすべて面白いのですが、それぞれが一人ずつになると、突然面白くないんです。やはり、どこかで妥協してしまうんですね。自分が面白いと思ったテーマは、最後まで超わがままに、偏執的に突き詰めていって欲しいと思った選考会でした。